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建築後記 / WARE HOUSE
02
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建築後記 / WARE HOUSE
PUBLISHED ON
17 MARCH 2023
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FIELD WORK  A

私的財産 後編

具体的な計画として、蒐集している家具を保管する倉庫空間としての1階と、空間中央の既存階段を2階へ上った先に来客や仕事の打ち合わせがある際に迎えるサロンを設け、その先に夫婦2人で暮らす為の住居空間を計画した。この基本計画は、以前の宮澤ランドリーが1階を商いの空間、2階を住居として設計されていた建物本来の骨格に逆らわない事を前提条件にしている。次に、各空間の使用目的を明確にし取捨選択をする。1階の倉庫空間に必要な要素は「家具が保管されている事」なので、出来るだけ何もない広い間取りを設ける事と、明るい日差しによって家具にダメージが無いよう、既存窓を壁面で’’殺し’’てしまったり、既存のアルミサッシに組み込まれていたガラスをアルミ板に入れ替えて暗くする。断熱性能を上げる事はきっぱりと諦め、生物が快適に暮らす空間とは真逆の、保管されている家具にとって快適な空間を設けた。あまり手を加えた空間ではないが、クリーニング店だったが故に仕立てた洋服を天井に掛けて保管しても人が通れるよう意図的に天井が高く設計されており、閉塞的な空間でも息苦しくなく幸いであった。2階のサロンはどうしても1階と階段で繋がった空間になるのでこちらも断熱を諦め、代わりに信州の風を取り込む大きな窓を取り、冬の来客の為に薪ストーブを用意し、会議用のテーブルを設置した。半屋外と紹介するような、暑いも寒いも外部環境にダイレクトに影響されてしまう空間だが、断熱を諦める事によって建物の構造を意匠にし、現在の整った規格で加工された木材構造とは違う、手加工で組まれた荒々しい木材の良さを残す事が出来た。あくまで持論だが、何か物事を考える際に重要なのは、満たされていない事だと思う。偶然にもサロンはそういった場所になった。住居空間は生活環境を考慮し、建物内側の全包囲断熱を行う事を前提にしつつも前任者の住居空間の間取りを、可能な限り尊重していく計画を考えた。全編でも記述したように、宮澤ランドリーに感じた私的財産とは目には見えない心情的な想いを受け継ぐことだ。手を加えなくてもそこに在る価値を、新しい住居人が暮らす為に空間を一新する行為が前任者を否定しているような違和感に対し、以前の間取りを踏襲することで私的財産を守れるのではと考えた。例えばL型のキッチンや、半畳の押入れに冷蔵庫を収納して生活感を無くす発想、玄関とサニタリーが一緒になっている独特な間取りをポジティブに解釈し、再構築を試みる。一般的ではない間取りだがどこか合理的で潔い発想が宮澤さん夫婦らしく、とても気に入っている。新しい意匠について、素材は自分にとって雑念にならない素材選びを心掛けた。ごく当たり前な白い壁と天井と、信頼出来るドイツ製の金物製品を多く使う事。ダウンライトの刺すような光が苦手で、出来るだけ直接光を見ないような照明を計画した。床は各部屋の用途によって汚れ方が違う為、チークの無垢板/モルテックス左官仕上/麻のカーペットの3種類の異素材を実験的に採用し、今後の為のフィードバックを得ている。