建築後記 / E
03
ISSUE
JOURNAL INDEX
- PUBLISHED ON
- 20 MAY 2023
- EDIT
-
FIELD WORK A

街と山
実家の敷地内にある活用していなかった鶏舎と畑のスペースを更地にし、夫婦2人の住宅を計画する。松本平を一望出来る立地で、ゆっくりと時が流れているかのような長閑な農作地域でありつつ、中心市内まで車で10分弱といった利便性も魅力的な地域だ。計画ではまず、やや急な傾斜地を昇った先の平地に建物を建てるべく、工事車両が安全に通れる距離-幅-勾配が確保出来る道の造成計画と整備を行なった。次に普通なら駐車場や庭といった外構を前提に建物を計画していくのだが、整然として余白がないようなランドスケープを施主は望まず、あえて一切を考えないことにする。眺めていたい南西の景色に採光が開かれながら、土地形状に沿う伸びやかな片流れの住宅を建築することにした。施主は好きな物が明確であり、自然と打合せでは好きな物や趣味の話題がキーワードとなっていく。使い込むほどに表情を変えていくTRUCK FUNITUREのFKソファが似合い、施主の愛車であるトヨタのランドクルーザーのように工業製品でありながらも一生付き合い乗れる車を価値観の軸として、合理的な建物がそのまま空間になるような素直さと、間取りが住み手の生活を成約してしまわないような大らかさを持った住宅を提案した。逆に建物に組込まれた造付けのL型キッチンは、家と共に永く付き合っていけるように施主が自らメンテナンスが出来る木製で製作をする。伸びやかな屋根形状のそのまま生かすべく、ほぼ全ての居所が傾斜天井なのも特徴だ。所謂、玄関には玄関収納。勝手口やパントリーや造り付けの棚等は一切用意せずに、不自由を満たす為に住みながら創意工夫を凝らす新築を目指す。意匠はメインの床材にオークを採用することを軸に計画をする。このオークは所謂素性の良い綺麗な物というよりも、製品の加工段階で節穴や裂け目に穴埋め処理がされたオーク材を選択する。白壁とその他木部が、オークの床材が経年変化した後に違和感を感じさせないよう先に歳をとったような日焼け色に調色をすることにより、施主の好きなビンテージ家具と真新しい空間とのハレーションを緩和させる色調調整を行なった。外壁はガルバリウム素地の屋根材や雨樋との相性の良いチタン色の角波ガルバリウムで覆い、機能性と色調の合理性を意識した。都市でありながらも田舎らしく、庭も畑も住宅も長い時間や手間を掛けて根付いていく土着の意識と、現代の建築技法で設計された軽やかな住居がなんとも施主らしいと思う。