ISSUE002 / Haluta(上田市)

北欧家具、「引き継ぐ」ためのリペア。

Published on 10.26.2016

若くても、職人の手。ネジをばらして、埃を取って…よく動く。 引き継がれた名品を、名品としてこの先の先へと、引き継ぐために。 彼女たちは家具の一つひとつと向き合い、細やかに手を動かし、リペアを行っています。

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上田市の中心部から少し足を延ばすと現れる、4000坪の広大な敷地。もとは工場だったというその場所、haluta AndeLundに足を踏み入れたときの感覚は、どう表現したら良いだろう。 

見渡す限り、所狭しと並べられた(ときに積み重ねられた)家具、また家具。それはウェグナーの椅子であり、フィンユールのテーブルであり、モーエンセンのシェルフで……。ひとつだけでも十分すぎるほどの歴史をはらんだ北欧家具のマスターピースたちが、ここではなんだか平気な顔をして、隣り合って並んでいる。なんとも不思議な空間だ。

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halutaがヴィンテージ家具の愛好者に特別な眼差しを向けられてきた理由。そのひとつは仕入れの大胆さにあるといわれる。
haluta代表・徳武睦裕さんが主に買い付けるのは、有名オークションの舞台に上がるようないわゆる「血統書付き」的家具ではなく、民家の軒先や、倉庫の片隅に導かれて出合った、普段着の逸品たちだ。そこでたとえ脚が一本くらいなくても、多少突き板が割れていても、良い品なら日本へと連れて帰る。だからときに、「掘り出し物」と呼びたくなる価格の家具も出せるし、とんでもない珍品が迷い込んだりもする。

 しかし、そんなhalutaの冒険心あふれる買い付けが、若きリペアの職人たちの手によって支えられていることを、知るひとはあまり多くない。
haluta AndeLundの片隅にひっそりとある、3部屋続きの小部屋。ここにhalutaの影の中枢(と呼びたい)、リペア工房はある。
通常、傷は直しても塗装はしない、逆に塗装しか行わないなど、工程ごとの分業化が進む日本の家具リペア事情にあって、クリーニングから研磨、塗装から最終の仕上げまで、一貫して行うことができるその環境は、とても珍しく、貴重な存在だ。

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船便で到着した家具たち。リペアはまず一度、すべてのパーツをバラすことからはじまる。接続部分にたまった埃を落としながら全体の状態を見て、どれくらい直すべきものなのかざっとプランを立てていく。このとき、ネジの変色はあえて磨かず、風合いを残すのがhalutaの基本方針だ。

「北欧家具の良品を、未来へと引き継いでいけるようリペアをするのが、私たちの仕事です」

そう話すのは、職人の一人、稲田さん。
そもそも「リペア」とは、修理、修繕、手直しや復旧作業といった意味を持つが、ではどこまで繕い直すのか、どこまで復旧をするのか、どのように手直しをするのか。無数の道筋がそこにはあり、それぞれの判断、突き詰めれば意志、が問われることに、そんな言葉ではっと気づかされる。

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そう、ヴィンテージ家具は、いま、ここにたどり着くまでの長い時のなかで、すでに数々の所有者たちの手を渡ってきたものであることがほとんどだ。

「しかもこの先も、何十年とこの家具は引き継がれていくはずなんですよね。ひょっとしたら持ち主が変わるかもしれないし、また修理が必要になることもあると思います。そうなってもまた使い続けられるものにしておくためには、『修理をしすぎない』ことのほうがじつは、重要なんです」

最初は、高価で貴重な家具を削ったりするのが怖かった、と照れたように話す彼も、今ではすっかりhalutaの「門番」のひとり。高級新作家具の販売等を経て現職に就いた彼自身もまた、ヴィンテージ家具の熱烈なファンだと話す。

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その後も工房では、家具をめぐる話がとめどなく続いた。
時代によってねじ穴の形や使用される金属の種類にも趨勢があること(真鍮の、マイナスねじの美しさ!)、突き板の薄さ厚さや曲木の技術も移り変わっていること(それによりデザインにも微妙な差が生まれている)、仕上げのウレタン塗装とラッカー塗装の違いについて(50年先、さらに美しく時を重ねる塗装とは?)、など、など。
尽きることのない北欧家具への「愛」をたっぷりと浴びて、改めて倉庫に戻ると、美しい家具たちがさらに美しく、いきいきとした表情をたたえて目に飛び込んでくるのだった。

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伝統的職人技術と近代の量産体制との絶妙なバランスのもと、長く世代を超えて使い続けられることを願って作られた北欧家具には、凛とした美しさとともに、時代の流れや人々の暮らしの変化をも受け止める不思議な包容力がある。
加えて、ここhaluta AndeLundで気づいたこと。
こうした家具の魅力に触れ、傷の一つひとつや経年変化の様子を愛着につながるストーリーとして受け止めたとき、じつは私たちのなかにも不思議な包容力と豊かさが育まれていることにふと、思い至るのではないだろうか。

かつては同じ顔をした新品であったはずの家具たち。けれど今や、一つひとつが違う時を経た、唯一無二の存在だ。倉庫の中、それぞれが静かに放つ長い旅の物語に耳を傾けているうちに、瞬く間に時間が過ぎ去っていくのだった。

気づけばすっかり日が傾いてしまった。 帰りぎわ、思いついたように、稲田さんが棚の奥から小さな箱を抱えてやってきた。 「家具そのものに触れられるのも最高に楽しいんですけど、こんなものにもなんかぐっときちゃって、捨てられなくて」

中を覗くとそこにはかつての持ち主が忘れ残していった品々が、そっと、大切にしまわれていたのだった。

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haluta AndeLund
住所 〒386-1106 長野県上田市小泉821-1 
電話 0268-71-3005
営業時間 13:00~17:00
営業日 火曜日、土曜日、日曜日、祝日
※入場は手前のレセプションから
※情報は取材日の2016年8月現在のものです

written 玉木美企子・Photo 佐々木健太