ISSUE010 / 犬飼眼鏡枠(松本市)

手が作るプロダクト―犬飼眼鏡枠

Published on 5.21.2018

長野県、松本市。なわて通りから少し歩いて橋を渡り、路地へ。
いつしか観光地の喧騒は遠のき、懐かしいたたずまいの町工場が立ち並ぶ一角に出る。
ここが、犬飼厚仁さんが営む工場兼ショップだ。

日本におけるメガネの一大産地・福井県鯖江市。この地で約8年、厳しい職人の世界に学んだ犬飼さん。そして2016年、「犬飼眼鏡枠」を、晴れてここ松本市にオープンさせた。

金属製の芯こそ鯖江市の専門業者にオリジナル品を注文しているものの、デザインから制作まで、眼鏡枠づくりのすべてを手がけるのは、犬飼さん一人。分業化を徹底することで量産を可能にしてきた眼鏡業界のなかで学びながら、本家・鯖江市ですらめずらしい一貫生産、そして販売までを行うのが、犬飼眼鏡枠の大きな大きな特徴だ。

ただし、ここにあるのは「眼鏡枠」まで。レンズは一般の眼鏡店に持ち込んでもらう。そんな、実験的なスタイルにも関わらず、すでに多くの人々が犬飼印の眼鏡を手を取り、その美しさと、身体に素直に寄り添うかけごこちのよさに、魅了されている。

だからこその、この店内。使い手=一人に対し、ならんでいる機械は大小合わせて30台以上。どれも即戦力の相棒たちで、飾り物など一つもない。「そうか、眼鏡づくりとは、これほど手間(と時間)のかかるもの」。ここへ来た人は皆、しぜんとそんな風に思い巡らすことになる。

当然、店舗スペースは追いやられ、壁際のごく一部に控えめにあるのみ。ショップというには、じつにささやかだ。それでも不思議と、この空間には居心地のよさがある。機械たちの間を縫うように生けられた、可憐な野山の花々に迎えられ、気づけば眼鏡枠の前に、いつまでも佇んでしまう。

なにせ、美しい眼鏡枠だ。素材はべっ甲などではなく、近年の量産型眼鏡にも用いられているアセテート。それなのに、犬飼眼鏡枠のものは、存在感が明らかに異なるのだ。たとえばこの「SAJI」の、飴細工のように艶やかな光はなんだろう。幾重にも色が重なる「NO NAME」の、洗練と気品は──。

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眼鏡作りを志したきっかけは、自分でも使う生活の道具を、自らの手で作りたいと考えたから。大学ではメディアアートを学び、じつはIT企業での勤務経験もある犬飼さんだが「やっぱり、触れられるもの、手触りのあるものを自分の仕事にしたかったんだって、あるとき気づいたんです」と笑う。

そうして、犬飼さんは生まれ育った松本に、クラフトの街・松本に帰ってきた。もちろん多くのものづくりの先人・達人たちが、犬飼眼鏡枠の誕生を祝福し、あたたかく迎え入れてくれた。

「対面での販売にこだわっている理由の一つは、お客様の顔の形や耳、鼻の位置などに合わせて調整をしたいからです。加えて、制作の過程までまるごと、お客様と共有したいと考えていて」

工業の工芸のあわいにある、眼鏡という生活の道具。 かけごこちのよい眼鏡は、かける人の負担を減らし、生活の質を上げてくれる。そして装う楽しみもまた、生活に欠かせないものだと、犬飼さんの眼鏡は教えてくれる。

さて、だいぶ日が高くなった。松本の街を案内していただきながら、もう少しお話をうかがうことにしよう。

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〔犬飼眼鏡枠〕 
眼鏡フレーム製造・販売
松本市城西1丁目4-1
0263-55-4315
http://Inukai-opticalframe.com/

written 玉木美企子・Photo 佐々木健太